20以上の役柄を2人で演じる出色のエンターテインメント!『グーテンバーグ!ザ・ミュージカル2018』上演中!

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たった2人の出演者、ピアノと帽子と小道具だけの舞台装置で展開される作品の中に、ミュージカルの歴史と、ミュージカルを愛する心、更に自分の頭で考え、夢見ることの尊さを描いた傑作ミュージカル『グーテンバーグ!ザ・ミュージカル!2018』が、新宿村LIVEで上演中だ(29日まで)。

『グーテンバーグ!ザ・ミュージカル!』は観客を「プロデューサー」や「スポンサー」に見立てた「バッカーズ・ オーディション(舞台作品のプレゼン)」の形式をとり、劇中劇に登場する20以上の役柄をたった2人の役者で演じるユニークな着想の作品。すでに世界6ヶ国で上演され、それぞれの国で最高のコメディ作品との絶賛を受け、今もなお上演が続いている。日本では2017年3月、作家=ダグ・サイモンを福井晶一、作曲家=バド・ダベンポートを原田優一のキャストで初演され、帽子をかぶり替えるだけで、20以上の劇中劇の登場人物を次々と演じ分ける2人の熱演が大評判となった。今回の上演はその好評を受けての再演で、初演コンビはもちろん、新たにダグを鯨井康介、バドを上口耕平のNewコンビが登場。2チーム制での上演となっている。

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福井晶一・原田優一

【STORY】
ミュージカルをこよなく愛し、自分達の作品をブロードウェイの舞台で上演することを目標に創作活動を続けている作家ダグ・サイモン(福井晶一・鯨井康介 Wキャスト)と、作曲家バド・ダベンポート(原田優一・上口耕平 Wキャスト)コンビは、夢のブロードウェイ進出を目指し、ダグは貯金をすべてはたき、バドはバイトを3つ掛け持ちして小劇場をレンタル。大物プロデューサーたちの前で、ピアノ1台、セットもないほぼ素舞台のステージで、20以上の登場人物を2人だけで歌い踊り演じるパッカーズ・オーディションに挑むことになった。彼らが描いたのは15世紀半ば活版印刷機を発明し、聖書の刊行に成功した実在の人物グーテンバーグを主人公にした架空の物語……
村のほとんどの人々が字が読めないことに憤りを覚えていたワイン製造業者グーテンバーグは「だってこの町には読むものがないんですもの」という助手のヘルベチカの言葉に天啓を受ける。「そうだ!印刷機を発明して聖書を大量印刷すれば、皆が読み方を覚えることができる!」そう決心したグーテンバーグは、印刷機の発明に没頭する。
だが、グーテンバーグが何かしているらしいという噂はすぐに街中を駆け巡り、性悪な修道士の耳にも届いてしまう。文字が読めない住民は、聖書の言葉を修道士を通してしか知ることができず、修道士の言葉はすなわち神の声だった。そんな唯一文字が読めることの特権を使い、住民を思いのままに支配していた修道士にとって、グーテンバーグの発明は自らの覇権を脅かす許しがたい行為だった。修道士はグーテンバーグの家を訪ね、ヘルベチカから巧みにことの顛末を聞き出すと「グーテンバーグが印刷機を発明してワイン製造をやめてしまったら、お前はグーテンバーグの助手をお払い箱になるぞ」と囁く。密かにグーテンバーグを愛していたヘルベチカは激しく動揺。遂に修道士の甘言にそそのかされ、グーテンバーグが発明した印刷機を破壊してしまう。
そんなこととは知らないグーテンバーグは、「この印刷機で皆が文字を読めるようになれば、皆はもっと賢くなり、自分の頭でものを考え、闇雲に植え付けられた偏見も捨てられる」と、輝く未来を想像して有頂天になり、ヘルベチカにプロポーズする。自分はとんでもないことをしてしまったと、自らの罪に打ちひしがれるヘルベチカはグーテンバーグの前から姿を消し、なんとか印刷機を修理したいと修道士に懇願するが、己の計画をヘルベチカが台無しにしかねないと考えた修道士に監禁されてしまう。
やがて街一番の年中行事「フェスティバル」の当日、自分のもとを去ってしまったヘルベチカを気にかけながらも、グーテンバーグは実はすでに残骸と化している印刷機の発明を村人に発表すべく、意気揚々と「フェスティバル」会場にやってくるが……

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上口耕平・鯨井康介

この作品の面白さ、着想の卓抜さは、なんといってもダグ&バドという2人のクリエーターコンビが、ブロードウェイでの自作発表を目指すバッカーズオーディションに臨むという大枠と、活版印刷の発明者として後世に名を残しているものの、その人生の全容はほとんどわかっていないグーテンバーグの架空の人生を描く劇中劇、という二重構造を用意したことに集約されている。

劇中劇で描かれるグーテンバーグの物語は、実はかなりシビアな内容で、識字率ほぼゼロという状況下で権勢を謳歌していた修道士に、図らずも挑む形になった主人公が見舞われる悲劇が描かれている。誰も文字を読めなければ、聖書の言葉は1人だけ文字を読める修道士がどうにでも創作することができる。そして自分の意のままに村人を支配できるという設定は、カルトと呼ばれる宗教団体や、もっと大きくはファシズムが行う言論統制が取る手段そのままで、役者たちの奮闘に笑いながら一瞬あとで、ヒヤリとした刃を突き付けられたような怖さがある。
その中で、文字を村人全員に広め、皆が自分でものを考えることによって、もっと平和な世の中が作れると考えたグーテンバーグの理想は、「学ぶこと」=「人が自分で考えること」の尊さへとつながり、国や時代を超えて変わらぬその真理に畏敬の念を覚える。またドイツ人のグーテンバーグの物語の中に、ただ闇雲に「ユダヤ人は嫌い」という価値観に凝り固まっている娘を登場させていることは、その意味でも深く示唆的だ。

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だが、この作品の見事さは、そうした真理につながるある意味で重いテーマを、クリエーターコンビに扮した2人の役者が、役名が書かれたブルーの帽子を取り替えるだけで、20以上の役柄を演じ分けるという大奮闘によって、完全なエンターテインメントに昇華していることだ。
帽子のかぶり替え自体が尋常な回数ではなく、時には両手に4つの帽子を持ち、4人の役柄を一節ごとに交互に演じて会話したり、ほとんどの帽子を重ねてかぶり、ひとつ話すごとに帽子を脱いでいき、次の役次の役と演じ分けたりもする仕掛けが、とにかく楽しい。それには地力のある役者が揃うことがまず第一条件だが、日本語上演版台本・訳詞・演出の板垣恭一が、現代の日本でなければわからない時事ネタを巧みに織り交ぜた他、役者たちの出自によって演出や動きを変化させるなどのきめ細かい仕事をしていることも功を奏して、場面が進む毎に声をあげて何度となく笑ってしまうほど、舞台は抱腹絶倒の楽しさで弾みに弾む。
何よりも素晴らしいのはバッカーズオーディションに臨むダグ&バドの青春ドラマが、グーテンバーグの物語が訴えた「人が自分で考える」ことによって生まれる輝く未来が、今はまだ実現していないけれども、夢をみよう、夢をみることを忘れなければ理想は必ず実現する、「世界に悲しみは尽きず、絶望も深いけれど、何度も諦めずに夢をみよう」というテーマに収れんされることだ。この素晴らしさ。鮮やかさ。

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そのステージを支えたキャストは、初演からの続投となったダグの福井晶一とバドの原田優一が、仕掛けと手順の多い舞台だけにどうしても起こる小さなアクシデントさえも、作品の笑いに取り込んで盛り上げていく、融通無碍の活躍を示して抜群の安定感がある。元々女性役も得意なら、端的に言ってただ歩いているだけで、ただ同じ言葉を2回重ねて言っただけで観客を爆笑させる力がある原田は、まるでこの作品のオリジナルのクリエーターたちが、地球のどこかから原田を見ていてアテ書きしたのではないか?と思うほど作品に打ってつけ。水を得た魚とはまさにこのことだが、その原田と対峙して堂々と舞台を務める福井にはまた感嘆させられる。どちらかと言うと重い作品への出演が多かったし、パワフルで重厚だけれども器用な人という印象は薄かっただけに、様々な役柄を瞬時に演じ分け、軽やかに歌い踊り演じる福井が新鮮で、この舞台でしか観られない新たな魅力に接することができる。2人共に歌唱力も抜群だから、ちょっとしたハモリがなんとも快く響き渡り、役者の力を十二分に堪能することができた。

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その初演キャストの存在が絶大なだけに、今回Newキャストとして登場したダグの鯨井康介とバドの上口耕平のプレッシャーには大変なものがあったと思うが、2人の体当たりの演技が清新な青春もののような輝きを際立たせて、こちらもまた実に新鮮なコンビになっている。特に演出の板垣が踊れる2人の特性を活かして、ダンスに力点を置いた構成になっているのも面白く、両コンビを見比べる妙味が更に大きくなった。鯨井の一生懸命で真っ直ぐな持ち味がグーテンバーグの理想を語る姿を更に印象的にしたし、これまで誠実な二枚目スターという印象が強かった上口が『パジャマ・ゲーム』で拓いた新境地が、今回のバド役への良い流れにつながっていて、様々な顔が楽しめる。彼らが好演したことによって、この作品が続いていく可能性が更に広がったことを思うと、その大奮闘に敬意を表したい。彼ら4人のキャストを支える音楽監督・ピアノの桑原まこの名演奏と無言の演技力も喝采に値し、舞台を大いに盛り上げたのが嬉しい。

劇中劇のミュージカルナンバーをダグとバドが解説することによって、「ミュージカル」というエンターテインメントの成り立ちや、創られ方を改めて学べることも多く、客席参加の場面、サプライズ場面と毎日観ても新たな発見のあるライブならではの醍醐味がつまった優れた作品で、是非1人でも多くの方に会場に足を運び、「考えること」「夢をみ続けること」の大切さを、大笑いしながら感じ取って欲しい必見のステージとなっている。

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〈公演情報〉
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『グーテンバーグ!ザ・ミュージカル!2018』
原作◇アンソニー・キング&スコット・ブラウン
日本語上演台本・訳詞・演出◇板垣恭一
出演◇福井晶一&原田優一、鯨井康介&上口耕平 (2チーム制出演)
●7/18~29◎新宿村LIVE
〈料金〉5,800円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉 .gutenberg@consept_com


【取材・文/橘涼香 写真提供/conSept】


舞台『野球』


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