若き日のティム・ライスとロイド=ウェバーの冒険心と才気に感服――ミュージカル『エビータ』を語る

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現在、初の英語版来日公演中のミュージカル『エビータ』
実在したアルゼンチン大統領夫人、エヴァ・ペロンの波乱にみちた生涯を描く物語です。

のちに『ライオンキング』『アラジン』などを作っていく作詞家ティム・ライスと、『オペラ座の怪人』『キャッツ』などの作曲家アンドリュー・ロイド=ウェバーふたりの天才がまだそのキャリアの初期、30歳前後の若さで書いた傑作。

今回の来日公演では世界のミュージカルスター、ラミン・カリムルーが狂言回しの "チェ" を、そして『レ・ミゼラブル』エポニーヌ役などを演じている若き新星エマ・キングストンがヒロイン・エバを演じているのも話題です。
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ロイド=ウェバー作品好きである演劇ライター・町田麻子さんと、編集担当の平野が、『エビータ』の貴重な来日公演に興奮しつつ、作品について、今回の来日版について...etcを、好き勝手に語りました!
 


 
● ロイド=ウェバーの"変態的"楽曲の凄さ
 
平野
「町田さんはブローウェイでご覧になっているんですよね。私は何せ四季版で育ってるので(日本では劇団四季が1982年に初演以降、独占的に上演している。直近の四季での上演は2012年)、今回の来日公演は色々と新発見がありました。......が、まずはとにかく久しぶりに『エビータ』を生のステージで観て、改めてアンドリュー・ロイド=ウェバーは天才だな、と......あえて限定してしまえば、初期のロイド=ウェバーは凄いな、と感動しました」

町田「平野さんが言う「初期」とはどのあたりですか?」

平野「特別なのは『ジーザス・クライスト=スーパースター』と『エビータ』ですね。『キャッツ』も時代的には初期ですし、音楽は最高に珠玉ですが、カテゴリとしてはちょっと別かな。『ジーザス』『エビータ』のふたつは特別に"変態的"じゃないですか?」

町田「わかります、『キャッツ』からちょっと大衆寄りになる。冒険心溢れてるのはその2作品ですよね」

平野「なんでしょうね、初期ロイド=ウェバー作品のキャッチーさって。『ジーザス』『エビータ』なんかはむしろ、その後のものより技巧的には凄いじゃないですか。めちゃくちゃ複雑なカウントで」

町田「あの変拍子は凄いですよね。『And the Money Kept Rolling In(金は出ていく湯水のように)』って何拍子か数えたことあります?」

平野「7かな。私、7拍子が好きで、たとえば『ジーザス』で一番好きなのも7拍子の『The Temple』なんです。ちなみにその前の『The Actress Hasn't Learned the Lines(エバ基金プラン)』も、7拍子4小節のあとに8拍子4小節が来る。すげーな!って」

町田「コロコロ変わりますよね。調も拍子も安定しないし不協和音も多い」

平野「安定しないのに、何も考えずに聞くと、そこまでの複雑さは感じさせなくないですか?」

町田「でも不思議なもので、キレイだな~と聴きながらも、どこかひっかかりは感じる。やっぱりそれはその変調・拍子の効果なんだと思います。だからこそ1幕ラストに効果的に、安定した拍子の『A New Argentina(ニュー・アルゼンチーナ)』がドーン! と来る」

平野「『ニュー・アルゼンチーナ』と2幕冒頭の『Don't Cry for Me Argentina(共にいてアルゼンチン)』は、ストーンと真っ直ぐ、心の中に落ちてきますよね。2曲ともシンプルな4拍子が中心になってる」

町田「そのあたり、よく考えられているなぁと思いました。最初の『Requiem for Evita(レクイエム)』とかも全然拍子とれなくないですか?「エビータ、エビータ」のところから3拍子っぽくなるけど」

平野「ほんとだ! 全然カウントできない。でもその複雑さにも気付いてなかった。やっぱりキャッチーですよ」

町田「3か4で割り切れる一般的な拍子のものが少なくて、それがすごく不安な感じにさせて惹きつけられて、でもここぞというところで、どーんとわかりやすく4拍子を当ててきてるのが上手い」

平野「ちなみに最近のロイド=ウェバー作品はどうですか?」

町田「うーん、逆にわかりやすくなってる気がするなあ。『スクール・オブ・ロック』とか全然ひっかかりがなかったです。でも『オペラ座の怪人』なんかも複雑ですよね。『オペラ座』はでも拍子が難しいというより和音が複雑な感じ」

平野「といっても『オペラ座』には15拍子とかも出てきますからね~」

町田「でも拍子を狂ったように変えていく最たるものは、味わったばかりだからというのもあるかもしれませんが、やっぱり『エビータ』じゃないでしょうか」

平野「私も味わったばかりだからかもしれませんが、そのご意見は賛成です。そしてそのことが中毒性を呼んでいる気がします。話を戻しますが、ちなみに今回の来日公演、『エバ基金プラン』と同じフレーズが出てくる『ペロンの野心』のところで貴族さんたちが行進してるんです。よくこのカウントで行進できるな、とも思います。そこぜひ注目して欲しい!」

▽『ニュー・アルゼンチーナ』のシーン⑤■P7047197.JPG

● 今回の来日公演版の楽曲アレンジについて
 
平野
「それでですね、四季版で育った私が結構目からウロコだったのは、音楽がかなりご陽気だな!ってこと」

町田「私もそれは2012年にブロードウェイで観た時に思いました。あ、『エビータ』ってクラシックじゃないんだ、って!」

平野「そうそう、四季版はかなりクラシック。ただ、映画はだいたい今回の来日と同じ感じですよね。『Buenos Aires(ブエノスアイレス)』がサンバ!」

町田「わたしはこの時(2012年)が強烈だったから、今回はそこまで驚きを感じなかったかな」

平野「ブロードウェイの再演版ですね」

町田「はい。エビータがエレナ・ロジャー、本当にアルゼンチン人の女優さんで、なんせチェがリッキー・マーティン」

平野「アチチの人ですね(笑)」
 ※郷ひろみがカバーした『GOLDFINGER '99』のことを言ってます。

町田「アチチ扱いですか(笑)。......というふたりが真ん中に立っていたので、すごいラテン押しで、「いちいちサンバだね!」みたいな感じでした」

平野「あと、チャリティーコンサートでエヴァとペロンが出会うところの曲、『I'd Be Surprisingly Good For You』。あれは、日本版はもう、ムード歌謡そのもの、という感じなのですが、今回の舞台を観たらアルゼンチンタンゴでした」

町田「そうそう。四季版は「♪あなたのための女~」とかの歌詞もあいまって、ムード歌謡ですよね」

平野「逆に言うと、この時代は各カンパニーごとに、アレンジが結構許されてたってことですかね? いまはロイド=ウェバー作品は、権利関係でガチガチですが」

町田「というより、オリジナルからどんどん変わっていってるんじゃないでしょうか」

平野「ああ、たしかにエレン・ペイジ(ロンドンオリジナル版)が歌ってるのは、四季版に近いかも」

町田「四季は上演が早かったから、その後に加わったラテン風味が入った影響を受けていないのかもしれませんね。......初演は確か、ロイド=ウェバー自身がオーケストレーションをやっていましたよね。うん、編曲はAndrew Lloyd Webber and Hershy Kay。2012年の再演版はAndrew Lloyd Webber and David Cullen。このDavidさんが加わったことでラテンアレンジになってるんじゃ?」

平野「1996年のマドンナの映画もDavidさん入っていますね」

町田「やっぱり。今回の来日公演もパンフによると、オーケストレーションはDavid Cullen。彼が映画版、再演版としてラテン色をを強めたのが、今回の来日でも使われてる、ってことじゃないでしょうか」
 
 
● ラミンは、今回のオリジナル演出バージョンの登板で正解!...だと思います
 
平野
「この流れで、今回の来日版について話しましょう。「オリジナル演出版」と謳っていますが、オリジナル演出とは、かのハロルド・プリンスが演出したバージョンにのっとっている、ということですよね。私、映画館のシーンから始まるのをはじめて観ました」

町田「そう! 私もはじめて観ました。ブロードウェイ再演版でもあれはなかったと記憶しています」

平野「あれがオリジナルなんですね~。マドンナの映画版の演出はオリジナルを踏襲してたんですね

町田「あと映像を多用してますね、全体的に。実際のエヴァとペロンのドキュメンタリー映像が」

平野「キャストはどうですか? 世界のラミン・カリムルーがチェを日本公演限定で演じていますが。......先に言っておくと、私はラミン・チェ、良かったよ!」

町田「すみません私はリッキーのチェのイメージが強すぎて......。うっかり恋してしまいそうなほどカッコ良かったの......」

平野「ラミンもカッコいいじゃないですか~! あと個人的にラミンは衣裳、今回のアーミー服で良かったと思う。きっとこっちのが断然似合ってる! チェは海外の上演はどんどんチェ・ゲバラっぽさが薄まってきてますよね(『エビータ』のチェはチェ・ゲバラではないが、ゲバラを彷彿とさせる存在)。でも今回はオリジナル演出版だからか、ゲバラっぽさが残ってて」

町田「ブロードウェイ再演版のチェはサスペンダー姿でしたからね。でもブロードウェイでもリッキーの後にラミンがチェをやるってウワサがあったんですよ。もっとロングランしてたらやってたかも。確かに......彼はこっちのバージョンでよかったですね」

▽ゲバラ色が残る、ラミン・チェ③■P7047183.JPG


平野「あとやっぱりラミンは上手いです。やっぱ歌唱力・表現力、このカンパニーの中にいても、ずば抜けてると思いました。......それからペロンが上手かった! ロバート・フィンレイソンさん」

町田「そうそう、ペロン良かったですね。今回のペロン、切れ者感ありました。わたし、ペロンって今井清隆さんしかり、マイケル・サーヴェリスしかり、映画版のジョナサン・プライスしかり、なんかポヨンとしたおじさんのイメージなんですが(笑)。エヴァにお尻を叩かれないと何も出来ない人ってイメージ。でも今回のロバートさんはちょっと冷たい感じで、面白かったです。ペロンと言えば、平野さんは軍服にこだわってたじゃないですか」

平野「そうなんですよ。ペロンが『ニュー・アルゼンチーナ』で上着を脱がない! 2幕冒頭で脱いでる。そこが気になって気になって。だってペロンという人物自体、上着を脱ぐパフォーマンスで「私はいち労働者だ」とアピールして民衆の心を掴んで、大統領に当選してますよね。だから大統領になったあとのカサ・ロサダで脱いでも意味ないじゃんって思うんですけど。ちなみにマドンナの映画でも、リッキーのブロードウェイ再演版も、ちゃんと『ニュー・アルゼンチーナ』で脱いでますよ。そのあたりも、もしかしたら上演を重ねていく中で良きほうにアレンジされていったけど、今回はそのブラッシュアップされる前のオリジナル版の味わい、なのかなー? と想像しながら観ました」
 
 
●映画版で加わったナンバー『You Must Love Me』
 
平野
「あと、今回の来日公演のポイントとして『You Must Love Me』が加わっている、ということがありますよね。映画版でマドンナのために書かれた曲。これについてはいかがでしょう。曲の内容としては、もう2幕の終盤、自分がガンになってるとわかったエヴァが、私を愛してほしい...と歌うナンバーです。ブロードウェイ再演版にはありましたか?」

町田「ありましたね。あったんですが、これ、多分、ペロンに向かってエヴァが歌っていたんです。映画もそうですよね?」

平野「感覚としてはそうですね。今回はエヴァが舞台でたったひとりで歌っていました。正直に言えば、曲の良さとかは置いておいて、演出的には唐突で付け足した感が否めませんでした」

町田「それは私も感じました(笑)。でも見方によっては、映画やブロードウェイ再演版では「愛してほしかったのはペロンから」と言っていたところ、今回はたったひとりで客席に向かって歌うことから、「欲しかったのは国民からの愛」みたいな解釈も出来るのかなって」

平野「なるほどねー。でもね、それでも私、あの曲は蛇足な気がします。つまり、この『エビータ』という作品は、エヴァ・ペロンという女が何者なのか、聖女なのか悪女なのか、っていうところが軸にあるじゃないですか。チェもそう歌ってますよね。最終的にその結論は描かれず、観客それぞれの想像に委ねられるんですが、作中のエビータからは、「聖か俗かなんてあなたたちに理解してもらわなくてかまわない、これが私」みたいに、安易な理解をはねつける強さを感じて、そこが魅力だと思うんです。それが、この曲が入ることで「私は純粋な女なのよ」ってアピールされて、答えを出されちゃった気がして......。もちろん、曲の良さとは別ですよ? 先ほどの例でいえば、美しいシンプルな4拍子で、とても胸に迫るメロディです」

町田「私は平野さんとは違って、実はあんまり物語の整合性とか気にしなくて、それよりミュージカル的な良さを先に考えちゃうんですね。この曲には大きくミュージカル界全体のロマンを感じます。『エビータ』を書いた時、ティム・ライスもロイドウェバーもまだ30歳前後ですよね。若いから、結構、作品自体に見切り発車感があるんです。全体として何を描きたいのかを置いてきぼりにしたまま書いていて、つまり、エヴァが聖女なのか悪女なのかわからないまま書いている。そして、わからなくなっちゃったから観客に委ねようという勢いを感じるんですけど。でも彼らが50歳前後になって映画版が作られるときになって、ふと振り返って、「エヴァってただ愛を求めてたシンプルな女だったのかもしれないね」みたいなことから、あの曲を書いたんじゃないかって勝手に妄想して、ふたりの成熟を感じたりしています。だって曲調もシンプルだし、言ってることもシンプルだし。なんか......エヴァってシンプルなんじゃない?って、言外にふたりが言ってるようで」

平野「はぁー。面白い!」

町田「ミュージカル界では有名な話ですが、ティム・ライスとロイド=ウェバーのケンカみたいなものがあったじゃないですか。それを経て、『You Must Love Me』は彼らが和解して初めて書いた曲だと言われています。その曲がまた、さらに時を経て舞台版に組み込まれるという、それはミュージカル界を俯瞰したロマンですよね。素敵だな~って感動しちゃいます」

平野「なるほど、私にとっては新鮮な視点です。でもこういうことを考えちゃうのって、ちょっと、オタク的発想ですよね、町田さんも私も(笑)。まったく『エビータ』を初めて観たって方に、あのシーンの感想を聞いてみたい気もしますね~」
 
 
● 名曲『Don't Cry for Me Argentina』と、それだけではない名曲たち
 
平野
「今回の来日版の演出で言うと、『Don't Cry for Me Argentina』表裏の演出はわかりやすいなと思いました」

▽『Don't Cry for Me Argentina』のシーン①■P7047232.JPG

町田「そうそう、感動的に歌い上げて、裏に回ったら「感動的なスピーチは本当に思っていたことではなく、民衆を釣ろうとしたパフォーマンスでした」という風に見える。『Don't Cry for Me Argentina』って、実はあまりたいしたことを言ってない歌なんだって気づかされました(笑)。「泣かないで」「言えるのはこれだけなの」みたいに感傷的な言葉を連ねて、感動的に言ってるけれど、実はまったく中身がない演説。そのことがこの演出はわかりやすいなと思いました」

平野「中身がない歌、なるほど! その歌が作品からひとり歩きして、感動的ナンバーとして知られているっていうのも、面白いですね」

町田「あとこれも言いたいんです。『エビータ』といえば『Don't Cry for Me Argentina』と『Another Suitcase in Another Hall(スーツケースを抱いて)』がずば抜けて有名ですけど、それだけじゃないぞ、と。というか、私にとってはこの2曲は『エビータ』の中では、全然いい曲の部類に入りません! もっといい曲たくさんあるから」

平野「町田さんが好きなナンバーは何ですか?」

町田「『High Flying Adored(空を行く)』と、『Rainbow High(虹の如くに)』です。今回のエビータ役のエマ・キングストンさんは、『Rainbow High』の「♪れいん・ぼー・はーい」のところ、「ボー」まで地声で出して、「ハイ」で裏声に落とすのがいいなって思いました!」

平野「音が下がるところであえての裏声!」

町田「それが味わい深かった。野村玲子さんの「♪にじーなーのー」も大好きですが。色々な歌い方があって面白いですね。誰にとっても難しい曲なんだろうなとは思いますが。......平野さんはどれが好きですか?」

平野「わたしはカットされている『The Lady's Got Potential(飛躍に向かって)』ですね! チェの高音がカッコいいロックナンバー。いやー、カットされててびっくりしたんですが、あとから調べたら、カット「された」のではなくて、確かに初演の前にすでにカットされている。コンセプトアルバムが先に出てるからややこしいんですが、コンセプトアルバムにはあって、初演ではなくて、映画で復活してるんですね。ただ、ここで色々とアルゼンチンの情勢が説明されているので、日本でやる時には入った方がわかりやすいと、四季版で入れたのは納得です。「♪イギリスに牛耳られヘイコラ」って歌詞が、そのあとのレインボーツアーで、エヴァがイギリスの対応にへそを曲げることに繋がるんだとか、腑に落ちますから」

 
● 日本語訳の味わい深さと、やっぱり感じる原語の良さ
 
平野
「もうひとつ、有名な名曲『Another Suitcase in Another Hall(スーツケースを抱いて)』ですが。そもそものことを言っていいですか? これ、名曲ですが、ミストレスって物語上、必要ですかね?」

町田「それは私も昔から謎で(笑)。ただ、この曲は名曲であることは間違いないし、ミストレスは1曲で目立つおいしい役。若手女優の登竜門ですよね」

平野「今回のミストレス、イザベラ・ジェーンさんも、めっちゃ美人でしたね~!」

町田「私、映画版くらいから、この曲の味わい深さを感じるようになりました。女性は結局主役じゃない、エビータも、ペロンがコロコロ入れ替えてる女の中のひとりにすぎなかった......みたいに見えてきました。後半でちょっと歌うじゃないですか、エビータも。で、最後にペロンがいうひと言がね~」

平野「あ! それ、私ちょっと語っていいですか。1幕でミストレスが『スーツケースを抱いて』を歌って、一番最後にチェが「Don't ask anymore」って言いますよね。四季版の訳だと「俺は知らない」なんですね。で、同じフレーズを2幕で病床のエビータが歌って、今度は曲終わりでペロンが「俺は知らない(Don't ask anymore)」って言う。それは、病床にあってもなお「私を副大統領にして」っていうエビータの権力への執着心に、四季版ではペロンが引くシーンになってる、と思うんです。今回の英語の字幕は「もうそれ以上言うな」って感じになってた。直訳だとそのとおりですよね。そうすると、ペロンがエビータを労わってるように感じたの。それが面白かった」

町田「あぁそうか。私はペロンがエヴァを労わってるようにはあまり感じなかったんですが、それは1幕でミストレスにチェが冷たく言い放った言葉の印象を引きずって、後半も冷たく感じたのかも」

平野「だから翻訳ってすごく大事。これはこの言葉を選択した四季版の解釈ですよね」

町田「色々な見方が出来ますね」

平野「ただ『エビータ』は情報量多いから、字幕も訳詞も大変ですよね。皮肉とか、あの文字数じゃ伝わりにくいし、あの複雑なカウントに合わせるのも......」

町田「それこそ私の好きな『Rainbow high』、英語だと「Rain-bow-high」と3音節のところが、日本語だと「にじ・な・の」とちょっと字余りになってますよね。原語は、とにかくティム・ライスとロイド=ウェバーがすごくよく考えて作ってる。英語だとあの変態的なカウントを、そのとおりに味わえます。これは来日公演ならではの味わいですよね。ほかにも『ニュー・アルゼンチーナ』では「If not, how could he love me?」という歌詞が日本語では「でなければなぜ私が」と、7音節が11音節になってしまいますから。だから、ロイド=ウェバーの本当の狂気は、原語でこそ感じますよね。あと有名になっていくキラーチューンはシンプルな曲が多いから、全幕で見ないとわからないというのもある」

平野「やっぱりこの機会に、劇場に足を運ぼう! って声を大にして言いたいですね! ......もうひとついいですか? 『エビータ』はチェのキャラクターがとても良いと思うんです。いわゆる狂言回し。これは、ロイド=ウェバーのデビュー作である『ヨセフと不思議なテクニカラー・ドリームコート』のナレーター、『ジーザス』のユダから続く黄金パターンが成熟して『エビータ』のチェになってる。それが日本のミュージカル『李香蘭』の川島芳子にも繋がってると思うし、『エリザベート』のルキーニもこの流れの中にあると思ってます」

町田「クンツェ&リーヴァイも影響を受けたであろう『エビータ』。そう考えると、ウィーン・ミュージカルファンも見逃すな、ですね(笑)」

平野「それにこれ、今の時代で考えると「素晴らしいミュージカルですね」ですが、これが1976年、もしくは1978年に作られているということに考えたらかなりの衝撃だったと思いますよ、真剣に!」

町田「まだ30前後のティム・ライスとロイド=ウェバーの若き日の冒険心と、才気と、『You Must Love Me』に良くも悪くもにじんでしまう成熟感を味わえる来日公演! ですね」

平野「はい!でも、色々言ってきましたが......」

町田「もっと物語を深読みしてみるという楽しみ方もあるのでしょうが......結局はロイド=ウェバーの音楽が聴ければいいんじゃない、ってところに落ち着いちゃうんですよね(笑)。しかも今回、ちゃんとオーケストラがオケピにいますからね!」

平野「そうです(笑)。ロイド=ウェバーの素晴らしい音楽を、生で堪能できる貴重な機会です!ひとりでも多くの方に見ていただきたいです」

 

文:平野祥恵(ぴあ)

 
【公演情報】
7月29日(日)まで上演中 東急シアターオーブ(東京)

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