時代物の傑作×コミカルな舞踊×スカッとする世話物。退屈知らずの三本立て! 六月大歌舞伎 昼の部レポート

『夏祭浪花鑑』
「夏祭浪花鑑」団七九郎兵衛=中村吉右衛門 三河屋義平次=嵐橘三郎 

六月の歌舞伎座は、“歌舞伎らしさ”がたっぷり堪能できるラインナップ!
「歌舞伎座百三十年」と銘打ち、趣向を凝らした作品を毎月世に送り出している歌舞伎座。6月2日から『六月大歌舞伎』が上演中である(26日まで)。

演目は、昼の部が、まずは「大化の改新」をモチーフにした『妹背山婦女庭訓』のなかから、蘇我入鹿の本拠地である御殿で、政治と恋のかけひきが繰り広げられる「三笠山御殿」。次に、平安時代の歌人・文屋康秀の小町への恋を描いたコミカルな舞踊「文屋」。そして、大坂の侠客・野晒悟助の颯爽とした男ぶりが眼目の「野晒悟助」。時代物の名作、洒脱な舞踊、世話物の名作と、バラエティ豊かな構成となっている。

夜の部は、同じく大坂の市井を舞台に、恩人のために奔走する侠客たちの生き様を、夏のむせかえるような熱気のなかに描いた「夏祭浪花鑑」と、欲にまつわる怪談話「巷談宵宮雨」。昼夜あわせて、歌舞伎作品のエッセンスが凝縮されたラインナップとなっている。

『巷談宵宮雨』右から
「巷談宵宮雨」おいち=中村雀右衛門 虎鰒の太十=尾上松緑 龍達=中村芝翫


今回は、昼の部のレポートをお届けする。

『妹背山婦女庭訓』右から
「三笠山御殿」金輪五郎今国=尾上松緑  杉酒屋娘お三輪=中村時蔵

【「三笠山御殿」あらすじ】
奈良の都。三笠山にある蘇我入鹿(坂東楽善)の御殿へ、藤原鎌足の使者として漁師・鱶七(尾上松緑)が書状をもって現れます。臣下になるという鎌足の書状を信用しない入鹿は、鱶七を人質にします。ほどなく、杉酒屋の娘お三輪(中村時蔵)が、恋い慕う隣家の烏帽子折・求女(尾上松也)の裾につけた苧環の白い糸を追って、この御殿に迷い込みます。なんとか求女に会いたいと、意地悪な官女たちになぶられても我慢をした挙句、求女が入鹿の妹・橘姫(坂東新悟)と結婚すると聞き、嫉妬のあまり逆上したお三輪は、奥へ踏み込もうとしますが、そこへ現れた鱶七に突然刺されてしまいます。その理由は…。

チョン、という柝の音とドーン、ドーンという太鼓の音で幕が開くと、目の眩むような荘厳な金殿。すでに世界を手に入れたかのような不遜な入鹿に対して、媚びへつらわない鱶七の度量の大きさ、剛腕ぶりが見どころの一つ。「鱶」(サメ)の字が名前に入っているくらい、強い男、ということだろう。楽善の入鹿は、不気味さと天下を狙うどっしりとした存在感。松緑の鱶七は、スケール感というより、物おじしない態度に愛嬌があり、客席の共感をうまく誘っている。ただの漁師の鱶七がなぜ入鹿にこんな態度をとれるのか? それは観てのお楽しみ。尾上松也の求女は、姫への思いはあっても、その正体と真の目的ゆえに、色気のなかにどこか冷徹さが漂う。時蔵にとっては、お三輪は、初舞台でも時蔵襲名でも演じた思い入れのある役で、今回18年ぶりに演じている。本来なら一生縁のない御殿に、迷い込んだお三輪。地元ではちょっとしたお嬢様だが、ここではそんなものは通じない。状況も作法も知らず、ただ求女を追ってここまできた彼女が、その必死の恋心を人質(!?)にとられ、官女たちのなぐさみものにされる。お嬢様のプライドはズタズタ。さんざん恥辱を受けた上に、求女とライバルの橘姫が祝言を挙げる声を耳にした時の、絶望、体を貫くような怒り。憤怒の形相を通り越し、まるで人外のもののように髪を振り乱し、御殿の奥を目指そうとする。見ず知らずの場所に迷い込んだ心細さ、求女に会いたい一心でいじめに堪える健気さ、かなわぬ恋への絶望と激しい怒り、そして求女の正体を知ってからの気持ち…。御殿へやってきてからのお三輪の心の移り変わりを、時蔵が丁寧に演じている。

『文屋』文屋康秀=尾上菊之助
「文屋」文屋康秀=尾上菊之助

【「文屋」あらすじ】
色好みの文屋康秀(尾上菊之助)は、小町に会いたさに御殿に忍び込みますが、官女たちに見つかって邪魔されてしまいます。康秀は、官女たちを相手に、自分の恋心を伝え、恋尽くしの問答を繰り広げるなどしながら、やがて小町のいる御殿を目指して駆けていくのでした。

幕が開くと、御簾の横に、清元の出語り。華やかな雰囲気で始まる。下手の扉からヒョイッ!ととぼけた表情の文屋康秀が飛び出してくる。あとを追ってきたゴツイ官女たちと、たわむれたり、攻防を繰り広げたり、テンポよく問答をしたり。全体的には、明るくコミカルな雰囲気の舞踊で、セリフも入るため、踊りだけのものよりも親しみをもちやすい作品。ただ、コミカルさのなかにも、ときおり見せる菊之助の康秀の切ない表情、しんみりした風情、歌人としての品の良さに目を奪われる。冷静に考えたら驚くような体の使い方も、サラリと見せるのは、踊り手の技量を感じさせるところ。

『野晒悟助』右から野晒悟助=尾上菊五郎、提婆仁三郎=市川左團次
「野晒悟助」提婆仁三郎=市川左團次 野晒悟助=尾上菊五郎

【「野晒悟助」あらすじ】
大坂の住吉神社。剣学指南の提婆仁三郎(市川左團次)の子分たちは、土器売・詫助(市村家橘)の売り物を粉々にします。そこに通りかかり、事情を聞いた侠客・野晒悟助(尾上菊五郎)は、詫助に仇をとると約束し、一両を渡します。そんな悟助に、詫助の娘・お賤(中村児太郎)はうっとり。その直後、境内で扇屋の娘・小田井(中村米吉)が先ほどの子分たちに絡まれているところを悟助が助け、小田井は一目惚れ。居合わせた侠客・浮世戸平(尾上菊之助)と喧嘩になりかけますが、老侠客・六字南無右衛門(市川團蔵)が留めます。
次の日、悟助の家へ嫁にしてほしいと小田井が母(中村東蔵)たちと共に訪れます。断ると、小田井が自害しようとするのでやむなく承諾する悟助。すると、そこへお賤もまた女房になりたいと願いに来て…。

侠客だけど一休禅師(あの一休さんです)の弟子で出家の身、という野晒悟助。裏表がなく、優しくて、強くて、颯爽とした正真正銘のいい男。娘たちだけでなく、オジサンにまで「俺も惚れたわ」と言わせるのもうなずけるような、菊五郎の悟助。今回、20年ぶりに演じている。白い着物に赤い襦袢という、キリッとした衣裳が似合う。喧嘩相手の浮世戸平は息子の菊之助が演じているが、親子の丁々発止のやりとりは、息が合って小気味がいい。児太郎のお賤は、貧しいが親思いの女の子。情の深さに持ち味がいきる。米吉の小田井は大店の娘で、乳母日傘で蝶よ花よと育てられただろうが、嫌みがなく、とても可愛らしいお嬢様。お賤は運がなく、先を越されてしまったが、小田井ちゃんが相手なら仕方ないわ、お家のこと頑張ってね、幸せになってね、と客席のおばさまも味方につけてしまいそうなキャラクター。最後の天王寺の場面では、普請中という設定で、竹の足場が組まれたセットと傘を効果的に使って、菊五郎劇団らしい、手に汗握るダイナミックな立廻りが見られる。

初心者の方なら、ひと口に「歌舞伎」と言っても、こんなにいろいろな作品の種類やテイストの違いがあるんだなあ、と実感できるラインナップ。歌舞伎ファンにとっては、前回の上演と今回の上演の違い、時の流れ、役者の成長や変化を楽しんだり、久し振りに上演されている作品を「そうそう、こんな内容だった!」と思い返したり、コアな楽しみ方もできるだろう。歌舞伎らしさがたっぷり堪能できる『六月大歌舞伎』、お見逃しなく!

【舞台写真の無断転載を禁止します】

〈公演情報〉
歌舞伎座百三十年『六月大歌舞伎』
【昼の部】(午前11時開演)
一、妹背山婦女庭訓 三笠山御殿
二、六歌仙容彩 文屋
三、酔菩提悟道野晒 野晒悟助
【夜の部】(午後4時30分開演)
一、夏祭浪花鑑 鳥居前・三婦内・長町裏
二、巷談宵宮雨

出演◇尾上菊五郎、中村吉右衛門、市川左團次、坂東楽善、中村東蔵、中村歌六、中村時蔵、中村雀右衛門、中村芝翫、中村錦之助、尾上松緑、尾上菊之助 ほか
●6/2~26◎歌舞伎座
〈料金〉一等席18,000円 二等席14,000円 三階A席6,000円 三階B席4,000円
一階桟敷席20,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉チケットホン松竹0570-000-489(10:00~18:00)
チケットWeb松竹 http://www1.ticket-web-shochiku.com/pc/(パソコン)

http://www.ticket-web-shochiku.com/(モバイル)



【文/内河 文 写真提供/松竹】


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