劇団青年座『安楽病棟』に看護師役で出演する若手女優 世奈インタビュー

IMGL4118

帚木蓬生の小説を原作に、青年座が本多劇場で『安楽病棟』を上演する。脚本は劇作家・演出家・俳優として大きな注目を集めているシライケイタ。今回、初めて青年座に脚本を提供する。また演出は青年座気鋭の演出家磯村純が手がける。この若い二人をリーダーに、青年座老若男女21名の俳優たちによって演じられる。

【ものがたり】
お地蔵さんの帽子と前垂れをひたすら縫い続ける女性。サーモンしか食べない女性。
深夜引き出しに放尿する男性。老人会の催しでおてもやんを踊る女性。
様々な症状の老人たちが暮らす認知症病棟。人生の終幕を生きる彼らにも輝かしい時
があった。医師や看護師の介護により、日々を懸命に生きるある日、一人の老人がなく
なった。その後、相次いで起こる患者の急死。それらの死に疑惑を抱いた若い看護師
は、事実の裏に隠された終末期医療に対するある思いを知り、そして・・・。

シライケイタによると「小説の中で描かれている認知症病棟の患者たちの生活空間を軸に、”小説から演劇へ”三次元に立ち上げ、魅力的な演劇作品として転生することを目指す」という。そして本作の最大のテーマである「安楽死問題」に真正面から向き合い、「生と死」について深く考察し、「日本、世界、そして人間のこれから」を観客と共に考える契機になることを望む。
そんな舞台で、若い看護師の役を演じるのが世奈。入団4年目、今年の4月、準劇団員から劇団員に昇格したばかりで、青年座期待の若手女優である。 

IMGL4165

看護の現場を見学
その大変さとやり甲斐を感じて

──世奈さんはこの作品で、看護師の役を演じるのですね。
山口という、まだ看護師になってまもない女性を演じます。山口は、この病棟に来て数ヶ月なので、慣れていなくて、色々なことが初めてで、動揺したりわからないことが出てきたりします。それを先輩に質問したり、教えてもらったりする中で、患者さんの現実の姿や、認知症病棟の日常なども、お客様に伝えられればと思っています。
──認知症の患者さんが沢山出てきますが、まだ20代前半の世奈さんにとっては、どこか遠い話ではないですか?
いえ、すごく実感のある話です。私は祖父母と二世帯住宅で一緒に住んでいて、祖父母はちょうど作品に出てくる患者さんたちと同じ年代なんです。今はとても元気ですが、これから先、この中に登場する患者さんたちのようになるかもしれないと思うと、他人事ではないと思いますし、見ていてすごく切なくなったりします。
──世奈さん自身のそういう気持ちが、新人の山口の新鮮な感受性に、うまく重なりそうですね。
そうなるといいのですが。山口はとにかく素直で真っ直ぐで、感じたことに対して正直なんです。でも、ただ明るいだけではなくて、信念を持って看護師を目指した女性なので、その芯を持って役を作っていきたいと思っています。
──確かに看護するには体力も必要ですし、とくに「認知症病棟」は綺麗事では片づけられないような現実もあると思います。
この作品に出演するにあたって、看護の現場を見学させてもらったんです。想像以上に現場は大変で、私はこの台詞を言っているけど、ちゃんとわかってなくて言っていたなと考えさせられました。ただ、その大変さも含めてやり甲斐を感じて働いていらっしゃるんです。そこに改めて感動しました。私もそのやり甲斐を感じている山口になろうと思いました。
──劇中で、先輩看護師の城野が、患者さんににっこりされたり、喜ばれることで自分も救われているというようなことを口にしますね。
そうなんです。「ケアすることで自分もケアしてもらっている」と。とても素敵な言葉だなと感動しました。それに、これも原作に出てくる言葉で、「患者さんとして接するよりも、一期一会、人と人との出会いとして考えると、すごく愛着が湧く」と。この作品には20人以上の登場人物が出てくるのですが、その1人ひとり、生き方も違いますし、それぞれの人生があるんですよね。そのことをすごく感じさせてくれますし、私自身、この人の人生をもっと知りたいという気持ちにさせられるんです。1人ひとりがとても面白くて、お客様もたぶんご覧になるのに忙しいのではないかと(笑)思うくらいです。
──脚本はシライケイタさんが書かれていますが、「生と死」を捉える中で、年を取っても「恋愛」や「性」とは無縁ではないという話も出てきます。
私の台詞なのですが、「寿命ある限り、命の火を燃やし尽くすぞという執念を感じます」という言葉があって、本当にその通りだと思います。年齢に関係なく人間の中で燃え続けているものだと思います。

IMGL4217

パワフルな大先輩たちに囲まれて
負けていられない日々

──そんな患者さんたちを、今回は青年座の大先輩の方々が演じているわけですが、同じ稽古場で見ていていかがですか?
皆さんすごく生き生きとされていて、すごくパワフルで刺激を受けています。最高齢は児玉謙次さんなのですが、いつもダジャレをおっしゃって楽しませてくださるし、ほとんどの先輩と初めてご一緒するのですが、面白いし、お元気で、この方たちから沢山のことを吸収させていただきたいと思います。負けていられないなと(笑)。
──年齢は違っても俳優同士ということでは対等ですね。
山口がお薬をあげるシーンなどでも、皆さん、毎回違うことを試されたり、「今日はこうしてみましょうか」と一緒に作っていってくださるんです。ですから私もアプローチを変えてみるとか、日々、色々なことを試していけるのが楽しいです。
──山口の上司にあたる看護主任の浅井は津田真澄さんが、先輩看護師の城野は小暮智美さんが演じています。それぞれ青年座を代表する女優さんですね。
津田さんは私の初舞台『天一坊十六番』をはじめ、私が出演した青年座の公演は全部ご一緒して、本当にお世話になっています。小暮さんは今回初めてご一緒するので、すごく楽しみです。お二人ともすごい女優さんで尊敬していますし、思い切り飛び込んでおいでと言ってくださるので、全力でぶつかっていきたいと思っています。

IMGL4105

研究所に入らないまま
準劇団員の試験に合格!

──世奈さんは入団してから4年目で、今年4月、正式に劇団員になったそうですが、演劇を志した動機は?
もともと通っていた学校には「スピーチコンテスト」という、朗読や話を覚えて発表するイベントがあったんですが、そこに何回か出たことがあって、自分はこういうことが好きなんだなという気持ちがありました。
──楽しかったのですね?
楽しかったです(笑)。母にも「全然緊張してなかったね」と言われるくらい伸び伸びやれたし、聞いてくれる人たちの反響が良いと嬉しくて。それで、これを続けるためにはどこに入ればいいのかなと迷っていたときに、たまたま母が見たテレビで舞台芸術学院が紹介されていて、直感でここに行きたいと思い決めたんです。
──舞台芸術学院(以下、舞芸)に入ってから、ダンスや歌、お芝居などを勉強したわけですね。
そうです。そこで初めて基本を色々学びました。ダンスも歌も好きでしたが、やはり演技すること、いわゆる「上演実習」が一番好きでした。
──そして舞芸を卒業したあと青年座に入団するわけですが、その経緯は?
青年座に入るためには、まず研究所に入らないといけないと思って、舞芸の方に受験の相談をしたところ、研究所を卒業しなくても準劇団員として入る試験もあると教えていただいたんです。そこで、まず準劇団員の試験も受けてみようと。まさか合格するとは思わなかったので,本当に嬉しかったです。
──研究所を経ずに準劇団員に合格するケースは珍しいそうですね。それだけ期待されての入団ということですが。
もちろんプレッシャーも大きいですが、それ以上にとても光栄なことだと思っています。
──同期には『砂塵のニケ』で主役に抜擢された那須凜さんもいるなど、皆さん優秀ですね。
入団同期は私を入れて6人(演技部5人、演出部1人)で、その中の5人は研究所からでしたから、最初はそこにどうやって入っていこうとドキドキしました(笑)。でもみんな優しくて、すぐ受け入れてくれて、私も知らない人たちだからこそ自分を思い切り出せたところもあって、どんどん仲良くなれました。
──切磋琢磨し合う部分もあるでしょうね。
本当にすごく刺激を受けています。入団1年目は稽古場付きで、いつも一緒にいたのでわからなかったのですが、そのあとはバラバラになって、それぞれ別の公演に出るようになると、お互いのことがすごく気になるんです。がんばっているのを観ると嬉しくなりますし、私もがんばろうと思います。お互いに高め合って一緒に上がっていきたいです。

IMGL4190

この物語の何が正しいとか
間違っているとかではなく

──入団してから青年座では3作品に出ていますが、これまでで印象深い役はありますか?
昨年、演劇鑑賞会の例会で首都圏ブロックを巡演した『からゆきさん』に参加したのですが、その中で演じたモモヨという役が、自分の中ではとても印象に残っています。からゆきさんたちの中でもまだ若くて、明るくて天真爛漫な女の子なのですが、運命は切なくて。あの役は出会えてよかったし、どこか縁を感じながら演じていました。もっともっとやってみたいと思える役です。
──『からゆきさん』は青年座の財産の1つですね。青年座に入ってから観た中で一番好きなもの、あるいは気になっている作品は?
そんなに沢山観ているわけではないのですが、やはり『ブンナよ、木からおりてこい』はすごく好きです。あの作品は青年座だからこそ創られた作品で、青年座の俳優たちだからこそ演じられる作品だと思います。さまざまな生き物の生と死が出てきますが、それは色々な世代の俳優がいる青年座だからこそで、ブンナはネズミの死から命を引き継ぎますが、そこは60年の伝統を次の世代に引き継いでいく青年座の歴史と一緒です。人が受け継いでいくものとか、そこに流れている魂など、観る人の心にすごく伝わるものが多い作品だと思います。
──その青年座で、これから世奈さんはどんな女優さんになっていきたいですか?
引き出しを沢山持っている女優さんになりたいです。今までは明るくて元気のある役を演じる機会の方が多かったのですが、そうでない役も演じる力を身に着けていきたいです。作品ごとに別人のようになれる役者さんをみると格好良いなと。どんな役もできるようになりたいし、それには色々な自分を見つけること、日々起きる感情を覚えておくことが大事かなと。そういう役がきたときにバンと出していけるようにしておきたいです。
──まずはこの『安楽病棟』での、世奈さんの山口に期待しています。では最後に観にくるお客様へのアピールを。
この作品はたぶん、どんな方にとっても他人事ではない話だと思います。何が正しいとか間違っているとかではなく、ご覧になってこの作品に描かれている空気を共有して、それぞれに何かを感じていただければと思います。ぜひ劇場へいらして、一緒に『安楽病棟』を体感していただければ嬉しいです。
 

IMGL4090
せな○東京都出身、2015年入団。主な出演舞台は、2017年『からゆきさん』全国公演(モモヨ役)、2016年『横濱短篇ホテル』全国公演(カオリ役)、2016年『天一坊十六番』 青年座劇場(合唱隊)、以上青年座公演。外部公演は、2017年『僕の東京日記』本多劇場(土橋郁代役)、2016年『フィルメーナ・マルトゥラーノ』青年座劇場(ディアーナ役)。

〈公演情報〉
stage_74119
 
劇団青年座232回公演
『安楽病棟』
原作◇帚木蓬生「安楽病棟」(新潮文庫刊)
脚本◇シライケイタ
演出◇磯村純
出演◇児玉謙次、名取幸政、山野史人、永幡洋、長克巳、嶋崎伸夫、堀部隆一、石母田史朗、鹿野宗健、岩倉高子、阪上和子、藤夏子、山本与志恵、吉本選江、五味多恵子、野沢由香里、津田真澄、小暮智美、井口恭子、世奈、橋本菜摘 
●6/22~7/1◎本多劇場
入場料(全席指定・税込)一般5,500円 初日3,500円
※O65(65 歳以上)5,000円 U25(25 歳以下)3,500円 グループチケット20,000円(同一日5枚)
※青年座のみ取扱い・当日受付精算のみ・O65 割引、U25 割引は身分証提示
〈お問い合わせ〉劇団青年座 0120-291-481(チケット専用 11時~18時、土日祝日除く)

 


【取材・文/榊原和子 撮影/友澤綾乃】





スタジオライフ『カリフォルニア物語』


kick shop nikkan engeki