長田育恵作、宮田慶子演出『砂塵のニケ』で主役に抜擢! 那須凜 インタビュー

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本年3月をもって、建て替えのためにその役割を終える現在の青年座劇場。その最終公演は、長田育恵(てがみ座主宰)の書き下ろし新作となる『砂塵のニケ』。
タイトルにある「ニケ」とは、ギリシャ神話に登場する勝利の女神。エーゲ海サモトラケ島で発見され修復された大理石像で、大きく翼を広げて、力強く優美であるが、そこに頭部と両腕はない。この女神像に頭部があったら、いったい何を語るのだろうか──。
現代に生きる1人の女性を主人公に、親から子が受け継ぐもの、そして未来に渡すもの、悠久の時の流れの中、二つの世代を旅しながら、彼女が自らの存在理由(レゾンデートル)を探る作品だ。
主人公の美術修復士、緒川理沙役を演じるのは那須凜。まだ入団3年目の若手女優で、まさに大抜擢だ。この大役に挑む彼女に、今回の役柄、作品世界、そして女優としての想いなどを話してもらった。

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過去と現在の東京とパリを舞台に
次世代に引き継ぐものを描く

──那須凜さんは本公演への出演はまだ4作目ですね。今回、主役と聞いていかがでした?
びっくりしました。私でいいのかな?という気持ちもありました。ただ、演出の宮田(慶子)さんの舞台は、地方公演も含めると何度か出させていただいているので、それは安心材料になりました。
──演じる緒川理沙という女性は美術修復士ですね。どう取り組もうと?
修復士という仕事についてはまったく知らない状態でしたから、修復工房にお邪魔させていただいたり、修復の仕事を実際に見せていただいたり、色々勉強しました。仕事自体はちょっとマニアックというか、絵画は表に出るものですが、それを修復する作業は陰の仕事で、理沙はそういう面も含めて美術修復という仕事に惹かれているのだと思います。お金持ちの家に生まれて、会社を経営する母親(緒川美沙子)から、仕事を継いで表舞台に立てと言われていて、でもそれは望んでいないことで。そういう理沙の葛藤と、母と子の関係、そして次世代に引き継ぐものというテーマが、東京とパリを舞台に描かれます。
──理沙は母親からのプレッシャーに抵抗して、美術修復士の道を選びますね。凜さんは女優の那須佐代子さんの娘であるということで、理沙とは逆の意味でプレッシャーがあるのかなと。
私の場合、母が25年間いた青年座という劇団をわざわざ選んだという時点で、プレッシャーはあって当然だと思っていました。でも先輩方と何度も共演させていただく中で、皆さんが私を、母の娘というより、1人の役者「那須凜」として見てくださっているのを感じるので、そういう意味ではプレッシャーはもうないです。ただ、この台本を読んでいると、母という存在や母娘の交わす会話自体には、色々感じることはいっぱいあります。
──自分の好きな仕事にフラットに取り組める人に比べると、理沙も凜さんも負荷の多い選択をしているのかなと。
理沙に比べると私の負荷なんかたいしたことないです(笑)。あまり考えずに飛び込んでしまったというか、高校を卒業して大学に行かないと決めたときに、いきなり女優になろうと思ったので。研究所に入った時も、まったく芝居についてわかっていませんでしたし、今でも全然わかってないままやっているので。あと何年かしたら、逆に母のことももっとプレッシャーかもしませんが、まだそんなところへも行ってない状態なんです(笑)。

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海を見ながら風に晒されて
砂になっていきたかったニケ

──長田育恵さんの戯曲についての印象はいかがですか?
台本を読んで、書かれる言葉が繊細で美しいなと思いました。それは女性だけでなく男性の台詞についてもそうで、男性の内面にある繊細な部分をすごく感じさせてくれます。それに、現実世界とちょっと違う、パラレルワールドではないですけれど、ファンタジーに近い不思議な世界を思い起こさせるような部分があって、だから演じていて飛びやすいなと。
──時空的にスケール感を感じる戯曲ですね。2014年の東京とパリ、1987年のパリが出てきますし、ある意味ではニケが作られた神話的な時代も感じさせます。
そう思います。追憶シーンで過去と未来が繋がるシーンもあるのですが、そこも長田さんの言葉だから成立しているという気がします。
──役柄上、美術修復の用語も沢山出てきますね。
美術修復には詳しくなりました(笑)。美術修復士という仕事は、本当に絵を愛してないとできないなと。すごく審美眼を持っていて、絵画のオリジリティを大事にしているし、元々あるその美しさを保つために仕事をするんです。美しいものを守って残したいという、その精神が素晴らしいなと。実際にお会いしたら面白い方が多いし、表には出なくても魂は芸術家なんだと思いました。
──作品のタイトルでもある「ニケ」の意味は、どう捉えていますか?
理沙の母には封印してしまっている時代があるのですが、「勝利の女神」であるニケがルーブル美術館の狭い踊り場に閉じ込められている、それが理沙の母親の現在にどこか重なるのかなと。母親の台詞に「本当はルーブルではなく、エーゲ海のどこかの島で、海を見ながら風に晒されて、だんだん砂になっていきたかっただろう」という台詞が出てくるんです。理沙と美沙子はそうなりたかったのかなと、私は感じました。

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素晴らしい先輩たちの中で、
宮田演出の叱咤激励を受けて

──登場する人たちも、それぞれ魅力的な人物像ばかりですね。母親の美沙子役は増子倭文江さんで、凜さんは何度か共演していますね。
本当に素晴らしい女優さんで心から尊敬しています。私が初めて拝見したのは、『ボビー・フィッシャーはパサデナに住んでいる』(シアター風姿花伝/2014年)で、すごい女優さんだなと感動して、そうか青年座の女優さんなんだと記憶に残ったんです。その作品では、私の母が増子さんの娘の役を演じていて、今回は私が娘の役を演じる。母子二代で母親をやっていただくことがすごく光栄です。この芝居に出てくる美沙子と理沙の対立など、すごくつらい場面なのですが、増子さんと一緒に演じられるのだと思うと嬉しくてしかたないんです(笑)。
──その他にも大先輩の山野史人さんをはじめ、横堀悦夫さんや綱島郷太郎さん、野々村のんさんなど、青年座が誇る俳優陣が顔を並べています。その中での主役ということで稽古場などで緊張しませんか?
もっと緊張でぎゅっとなってしまっているかなと想像していたのですが、皆さんが本当に温かくて、好きなようにやりなさいと言ってくださるので、なんとか自分らしくいられます。ただ、周りの方がすごく個性も強いし色も濃いので、まだ自分は空っぽみたいな感じがしているのですが、長田さんにも「凜ちゃんの未熟な部分や子供っぽい部分は理沙に合っていると思う」と言っていただいたので、自分が思うよりもっと那須凜がオープンになっていいのかなと考えているところです。
──演出の宮田さんからはどんな言葉が?
宮田さんからは、毎日、叱咤激励をいただいてます。「もっと絞って出して!甘えるな」とか。頭でいくら考えていても、ちゃんと表現できなかったらだめなので、そのためにも、もっと絞って突き詰めていくしかないと思っています。
──等身大に近い役ですから、そのまま出来そうですが、やはり突き詰めていかないといけないのですね。
重なる部分もあるだけに逆に難しいです。こういう場合、私ならこう表現するけれど、理沙だったらどう表現するのかなとか、その違いをちゃんと考えていくことが必要なんだと思います。

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研究所の2年間で
人間性ががらっと変わった

──最初の話にも出ましたが、演劇は高校を出てからいきなり始めたのですね?
母も父も俳優ですから昔から演劇は観ていたのですが、その仕事に就こうとはったく思ってなかったんです。三人姉妹で、姉は銀行員で妹は絵描きで、私も最初は普通に大学に進もうと思っていたんですが、高校のときに文化祭で1回だけ劇に出たら、それがすごく楽しかったんです。それに親やいろんな人から褒められて。私は次女なので承認欲求が強くて、姉は頭が良いし妹は絵の才能がある。でも私には何もない。それが文化祭の劇に出たら、今までなかったというくらい褒められて。これはやめられないなと(笑)。
──自分と同じ女優になる子供がいたことで、お母様も喜んだのでは?
その話を私が言い出したとき嬉しそうでした(笑)。積極的に何処を受けたらいいか資料を集めてくれたり、「やっぱり青年座がいいわよ、受けなさい」と背中を押してくれました。
──研究所に入って授業は楽しかったですか?
楽しかったですけど、私は今思うとちょっとすれてて(笑)、他の研究生と一緒に色々なことをするなんて面倒だなとか思っていたんです。でも2年目になったときには、それが結局一番大事だと、やっぱりお芝居は1人では作れないということに気づいたんです。だから研究所の2年間はすごく長かったという感覚があります。自分の中で人間性がガラッと変わったので。
──大きな発見と成長があったのですね。
成長はまだまだ途中なんですけど(笑)。でもその経験で、私はお芝居がやっぱり好きなんだなと実感したので、今こうして『砂塵のニケ』という作品に出させていただいて、お芝居をさせていただくのが本当に幸せで、終わったら私どうなるのかなと、今から心配してるくらいです(笑)。でもこの作品で、また私の中でなにかが大きく変わるだろうなと、漠然とですが感じています。
──まさに芝居が日々の生き甲斐なのですね。
芝居をしているときは夢の中にいるみたいな感覚があるんです。現実世界に戻ると普通に暮らしていることが不思議というか。物語の中にいるときが一番活き活きと生きているなと思います。実際は楽しいというより、苦しいことや、悔しいことのほうが多いですけれど。

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長い歴史を終える青年座劇場
新しい劇場を支える1人に

──ご両親が俳優ということで、自分の中に役者の血は感じますか?
他の方に言われてそうかなと思うことはありますけど、自分自身ではないです。父と母には敵わないと思うところばかりで、観に来てくれてダメ出しをもらうと、自分が全然見えてないことを思い知るばかりです。血という意味では、これは関係あるかわかりませんが、父が怒るときのエネルギーがすごいんです。そこはすごく似ているなと。怒りのエネルギーはすごいんです(笑)。
──感情の振り幅は演じるうえで役に立ちそうですね。女優として今後目指すものは?
今一番思っているのは、もっと人間を演じられるようになりたいと。お芝居ってどうしても嘘をつく部分が出てきてしまうのですが、そうではなく役を本当に自分の血肉として生きられるようになれればと。その役が舞台上だけでなく終わったあともどこかでずっと生きているような、観た方がそんなふうに想像を膨らませたくなるような、そういう人を演じられるようになりたいです。
──この作品の理沙も期待しています。最後に観てくださる方へメッセージを。
『砂塵のニケ』は青年座劇場の最後の公演になります。私も小さい時から母親に連れられて何度も来たところで、教室でピアノを勝手に弾いて怒られたり(笑)、あちこちに思い出がたくさんあります。青年座劇場に立つのは研究所の公演以来で、本公演ではこれが初めてなので、すごく嬉しいです。『砂塵のニケ』の「砂塵」は砂に還るという意味かなと思っていて、青年座劇場も長い歴史を終えて砂塵になります。でもまた新しい青年座劇場ができて、そのときにそこに立つ1人として、劇団を支えていく俳優になれるようにがんばりたいと思っています。この作品は親から子に引き継がれるものも描かれていますので、その意味も受け止めながら、良い舞台になるよう精一杯がんばります。

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なすりん○東京都出身、2015年入団。最近の主な舞台作品は、『わが兄の弟』作=マキノノゾミ、演出=宮田慶子(2017/青年座)『横濱短篇ホテル』 作=マキノノゾミ、演出=宮田慶子(2016/青年座)『フォーカード』  作=鈴木聡 、演出=宮田慶子(2016/青年座)など。

〈公演情報〉
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青年座劇場最終公演
劇団青年座231回公演『砂塵のニケ』
作◇長田育恵(てがみ座)
演出◇宮田慶子
出演◇那須凜 増子倭文江 横堀悦夫 久留飛雄己 野々村のん 清瀬ひかり 綱島郷太郎 松川真也 山野史人
●3/23~31◎青年座劇場
〈料金〉一般4,500円 U25チケット3,000円[25歳以下・青年座のみ取扱] 初日割引3,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉劇団青年座 0120-291-481(チケット専用 11時~18時、土日祝日除く)
〈公演HP〉http://www.seinenza.com



【取材・文/榊原和子 撮影/友澤綾乃】


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