藤山直美さん、大船に乗った気持ちで!『お江戸みやげ』波乃久里子・市村萬次郎が成功祈願&記者懇親会レポート  

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新橋演舞場7月公演は、「七月名作喜劇公演」と銘打ち、『お江戸みやげ』と『紺屋と高尾』の喜劇2作品を7月3日から上演する(25日まで)。
『お江戸みやげ』は、故・川口松太郎の名作喜劇。初演は1961年12月の明治座で、17世中村勘三郎がお辻を演じた。
梅が咲く「湯島天神」境内にやってきた行商人のお辻(波乃久里子)とおゆう(市村萬次郎)。芝居見物をした2人だが、お辻は人気役者の阪東栄紫(喜多村緑郎)に心を奪われてしまい…。

本来なら『お江戸みやげ』のお辻は、藤山直美が務める予定だったが、病気により降板。17世勘三郎の長女・波乃久里子が、父の当たり役でもあったお辻に挑む。お辻の相方のおゆうは歌舞伎から市村萬次郎。そのほかに、坂東栄紫は『黒蜥蜴』での好演も記憶に新しい喜多村緑郎、お紺にはテレビ、舞台でも活躍する小林綾子、常盤津文字辰には歌手として女優としても活動している仁支川峰子が扮し、舞台から病床の藤山直美を支える。

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6月12日、作品の舞台となる「湯島天神」にて、波乃久里子と市村萬次郎が『お江戸みやげ』の成功祈願と記者懇親会を行った。

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初夏の日差しが眩しい湯島天神の境内には、外国人観光客から学生まで、参拝客で賑わっている。参集殿から本殿へとかかる橋を、松竹株式会社取締役の西村幸記、新橋演舞場支配人の千田学、『お江戸みやげ』の演出を手がける大場正昭が神主と一緒に歩いたあと、波乃久里子と市村萬次郎が、お辻とおゆうのコンビそのまま、にこやかに笑いながら渡り、本殿に入ると成功祈願が始まった。
この神事を終えた波乃久里子、市村萬次郎の囲みインタビューが行われた。

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【囲みインタビュー】
 
波乃久里子
初日の前には必ずここに来るのですが、今日はこんなに清々しい空気で、お巫女さんの鈴も涼やかで、大入り間違いないと思いました。私は台本を神様に奉納して来ました。1961年(昭和36年)の初演の時は私は16歳で、明治座で市川翠扇のおばさまと父で観ました。その時に泣いて笑いましたから、いい作品だったと子供心に思いました。縁があって、直美さんの代役になりましたので、今日も直美さんが、守ってくれているような気がしました。以前、(7世 中村)芝翫のお兄様と中村富十郎さんがやっていらっしゃったのがビデオに残っていて、拝見させていただいております。二枚目の方なのに、見せ場で方言をつかっていてとても面白かったですね。この話は、悪人がぜんぜん出て来ませんよね。だから情の部分で泣かせるお芝居じゃないでしょうか。一人でも多くの方がいらっしゃってくれたら嬉しいと思います。演舞場へお越しくださいますようお願いいたします。

市村萬次郎
お参りさせていただいて清々しい気分になって、これで気持ちを新たに舞台稽古に入っていけるような気がしました。見どころは人が人を好きになるということですね。お芝居を観る方も自分の初恋の思い出があると思います。何かの拍子に人に惚れてしまう、その気持ちを思い出して観ていただいたら、面白いんじゃないかな。とにかくみんなで集まって楽しい舞台を作っていきます。ぜひご覧になってください。
 
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【記者懇親会】
 
成功祈願の後、大場正昭、波乃久里子、市村萬次郎を囲んで記者懇親会が行われた。

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大場正昭(『お江戸みやげ』演出)
僕は劇団新派で昭和49年から文芸部に所属しております。川口松太郎先生は、第1回の直木賞作家で、新派にたくさんの作品をお書きになられた。『明治一代女』、『風流深川唄』など花柳章太郎らの新生新派の俳優と二人三脚で今の新派を作り上げたんです。川口先生との思い出は、『遊女夕霧』の時に、客電を点つけるキューを出すことが僕の役目だったのですが、早いと言われたんですね。日本人は涙を見せるのは恥ずかしいから少し間を置けと言われた。遊女が涙を拭ったぐらいで客電が点くのがいいんだとおっしゃってもらって、日本人の心情を大切にすることを教えられました。例えば、関西には北条秀司という新派の大家がいらっしゃいました。北条先生は記録を残す方で、一語一句が骨董品だからと、きちっと大切にするんです。川口先生は、俺の書いたものは残らない、いつか消えてなくなるよという江戸っ子の資質を持った人ですね。そんな川口先生の『お江戸みやげ』を演出させていただいたのは、震災の年の4月公演でした。このときは、歌舞伎座を建て替えるため、新橋演舞場での公演でしたからご縁を感じますね。お客さんもまばらでしたが、後々になって、作家の赤川次郎さんたちが『お江戸みやげ』は面白いと書いていらっしゃって、川口松太郎さんはすごいなと改めて思いました。初演が波乃久里子さんのお父さんである17世の勘三郎さんと水谷八重子さんのお父さんである守田勘弥さんで、清川虹子さんがお出になっていらっしゃいます。久里子さんの弟で亡くなられた18世勘三郎さんが、初演のテープを持っていらっしゃって、すごい面白いよと伺ったことがあります。弟さんができなかったことが、お姉さんがやられると思うと、お父さんも喜んでいらっしゃると思います。この作品は僕の集大成としてみせたいですね。

波乃久里子
みなさまお集まりいただきうれしゅうございます。川口松太郎先生とお会いしたのは、私が15歳の時で、明治座の歌舞伎でした。『筆屋幸兵衞』を上演していて、その時のお雪を川口先生がご覧になってくださったのが最初です。「女性は歌舞伎には必要ないから新派に来い」と言われたんです。それから、川口先生の作品は明けても暮れてもやるようになって、私の父のような人なんです。川口先生の台本を読むと舞台はそれがすべてだと感じます。この間も、(7世)芝翫のお兄様の奥様にお電話して、どうやってらっしゃったんですかと聞いたら、とても楽しんでらっしゃったそうです。芝翫のお兄様は二枚目なのに、ものすごく楽しんでチャーミングで、喜劇性がある。私の父についた看護婦さんが、方言がある方で、それを芝翫のお兄さんが言葉を真似して作ったとおっしゃっていましたね。その方言は真似させていただこうと思います。直美さんには大船に乗った気持ちでいてくださいと言いたいです。

市村萬次郎
『お江戸みやげ』は、紋吉役で三津五郎さんと鴈治郎さんの時に出させていただいて2回目です。おゆうは初役でやらせていただきます。私自身、お酒が好きですが、おゆうもお酒が好きなので、なるべく普段のようにやらせていただければと思います。やはり人を好きになることは素敵なことだと思うんです。年を取っても同じことですね。人に恋い焦がれるのは、そばで見ているのも楽しいことだと思います。人を恋する気持ちがほんわり伝わればいいかな。最初に出演させていただいたときは、歌舞伎の世話物の女方の感じでできましたので、自分の持っている普通のお芝居、歌舞伎の要素が入った芝居を基本に沿って演じてみたいと思います。

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【質疑応答】

──女方がやってきた役をやるということで気をつけることはありますか。
波乃 女方は、オーバーな仕草もエネルギーが違うから見栄えがするんです。だから水谷八重子先生は、女方の演技を女優がするくらいなら女方で見たいわとおっしゃっていました。つまり、女優は女方の真似をしちゃいけないんですね。芝翫のお兄さんは、人間の真髄を見せるから、女方よりも人間を出すので、そちらに近づけたらと思います。それでも演じるのは難しくて、長谷川伸先生はどうして女優ではダメなんですかと川口先生におっしゃったら、「女方でしか書いてない」とおっしゃった。ですから、女優でしかできないやり方で演じていきたいですね。芝翫のお兄さんを目標にして頑張りたいです。
――お酒を飲むと気持ちの大きくなる役ですね。
波乃 私は喧嘩酒で、弟は私を見て、酒をやめようと思ったぐらい(笑)。父も好きでしたね。終生、「一番の酒飲みは俺で、女方では玉三郎だ」って自慢していましたね。

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――市村さんは前回出た時のご印象は。
市村 芝居自体は、お酒が好きなのでその雰囲気でやらせていただきました。今回はビデオがありますので、久里子さんと息が合うように、基本的には古典の形で行きたいですね。役者が持っている個性が自然にでればいいなと思っています。女形を意識しないで、お互いが役を作っていけば、男女関係なく作っていけるかなと思います。
――とても気のいい役ですね。
市村 そうですね。お酒を飲んで明るくなるけれど、冷静ですし、大阪弁ですしね。一番困るのは語尾ですね。捨て台詞がとまってしまう。
波乃 捨て台詞がちゃんと言えたら一人前になれますね。
市村 語尾が上がるんですよね。今回は台本がありますから安心しています。川口先生の本は、例えば、大阪と東京の相場が変わるので、金銀の価値の違いを大阪と東京で分けているんですよね。細かいところまで目配りができていますよね。
大場 僕も初めて知りました。
波乃 市村さんに演出していただきましょう(笑)。川口先生は落語の円玉さんのところに居候していたんですよね。それで『遊女夕霧』ができたんです。本当に苦労したらしいんですよ。しかも川口先生は久保田万太郎さんのお弟子さんでしょ。久保田先生も輪にかけて貧乏(笑)。お父さんの魚屋の2階に居候していらしたそうです。あるとき、弟子が出世してロールスロイスで迎えにきたこともあるそうですね。
大場 万太郎さんは川口さんに仕事を与えていたんですよね。
波乃 その作品を演じられる。役者冥利に尽きますね。脈々と輪が繋がるんですね。直美さんにはぜひ恩返ししたいですね。

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――お辻とおゆうがこれほどまでに愛されている理由は。
波乃 それは役者次第ですね。今度は愛されるかどうかわからない(笑)。だから、女優の直美さんがやると聞いたときは勇気があるなと思ったんです。本当に父も可愛かったですからね。芝翫のお兄さんも、三津五郎さんもチャーミング。私の場合は、歌舞伎役者に惚れましたね。一番初めが、中村歌右衛門さん。とてもチャーミングだったから。だから役者を好きになるお客さんの気持ちがわかります。
市村 江戸の芝居なので、周りがみんな江戸の人間で、そこで地方から出てきて商売をして帰る。最後の方に、田舎の人は律儀だねというセリフがあるんですけど、大都会である江戸ですから、ピリピリしているところにのんびりした雰囲気のおゆうが来ることで、お客さんが人間味を感じるんでしょうね。
――勘三郎さんもやりたいとおしゃっていましたね。
大場 そうですね。役者が役者をやるのはやりにくいとおしゃっていました。ただずっと、お辻をやりたいと思っていらしたそうです。
波乃 よかった私がやって(笑)。でも、お弟がやったら、さぞ面白かったでしょうね。私はまずお墓参りで、弟と父のお墓に行って、勇気をくださいと言いました。今回、藤山さんの代役になったのは、父がやっていたからということで、松竹の西村さんが選んでくださったんですよね。もう、父には拝み倒すしかない。私は父の前で、初日の前日にセリフを言うことにしています。

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――お父様について、改めていかがですか。
波乃 この作品は『末摘花』の雰囲気があるんです。ただ、父の女方は、『末摘花』とは違う。不思議な作品です。チラシの衣装も、父のお辻の絵とか写真を見て、父と同じ顔にしてくれと言って真似をしたんですよ。今でも見ただけで泣いちゃうんです。父が乗り移ってくれたら嬉しい。
――セリフの中で、女が男に惚れるのはばかばかしいというようなセリフもありますね。
市村 人を好きになることがばかばかしくはなくて、魂が一瞬で奪われて、自分自身の人生をすべて好きな人に捧げたくなる人の姿を表現したんですよね。
波乃 萬次郎さん生き字引き。川口先生の弁護士よね。
大場 川口さんの台本は本当に泣きますからね。
波乃 川口先生の話は難しいですね。「以下役者に任せる」と書いてあるから。北条先生のものは脚本に助けられますけれど。
大場 俳優の力に頼りたい脚本でもありますから。そういう芝居は、古びないし、団塊の世代の人たちも観にきていたと聞きます。これからも残していきたい作品ですね。
 

〈公演情報〉
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『七月名作喜劇公演
 
一、お江戸みやげ(おえどみやげ) 
作◇川口松太郎
演出◇大場正昭
 
二、紺屋と高尾(こんやとたかお)
口演◇一竜斎貞丈
脚本◇平戸敬二
演出◇浅香哲哉
 
出演◇波乃久里子、浅野ゆう子、市村萬次郎、喜多村緑郎、曽我廼家文童、大津嶺子、仁支川峰子、小林綾子 他
●7/3~25◎新橋演舞場
〈料金〉一等席13,000円、二等席8,500円、三等A席4,500円、三等B席3,000円、桟敷席14,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉チケットホン松竹 0570-000-489(10時~18時)
 


【取材・文・撮影/竹下力】



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