豊原功補が初の脚本・演出で落語を珠玉の舞台に! 芝居噺『名人長二』上演中!

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豊原功補の企画・脚本・演出・主演舞台、芝居噺『名人長二』が、5月25日から新宿・紀伊國屋ホールにて上演中だ(6月4日まで)。
モーパッサンの短編小説「親殺し」をベースに、現代落語の祖と言われる三遊亭圓朝が新聞連載した『名人長二』。その落語を、小泉今日子が企画製作を行う「明後日プロデュース」の第2弾として舞台化した作品である。
豊原功補の大好きな落語を題材に、念願かなっての舞台で、指物師長二と彼に関わる人間たちの生き様を描き出している。共演には高橋惠子、山本亨、舞台初出演となる森岡龍、さらにモロ師岡、梅沢昌代、花王おさむという個性溢れる役者たちが顔を揃えた。

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【あらすじ】
舞台は江戸時代後期(享和から安政の時代)、本所の〆切(現在の墨田区・スカイツリー周辺)に住む腕利きの指物師(机や箪笥といった家具を作る職人)で、産みの親知らずの堅物な長二〈豊原功補〉と、その弟子の兼松〈森岡龍〉は、札差(米を差配する分配業)の坂倉屋助七〈モロ師岡〉の依頼で仏壇を作る。これが見たことのない美しい作品で、長二は指物師として江戸中に名を轟かせることになる。その仏壇への対価の100両を元に、足の悪い兼松と長二に幼い頃からあったという背中の傷を癒すために湯河原に湯治に出かける。そこで長二は宿に住み込む湯河原の婆〈梅沢昌代〉によって、出生の秘密を知ることになる。そして、仏壇の一件以降、頻繁に指物を注文してくれ、好意を抱いてくれる両替商の亀甲屋幸兵衛〈山本亨〉とその妻・お柳〈高橋惠子〉が実の両親でないかと疑い、やがてあるきっかけで確信へと至る。そしてこの夫婦が自分を棄てた産みの親だと気付いた長二は、一言でいいから親を名乗ってくれと詰め寄る。しかし、頑なに認めようとしない亀甲屋夫婦に、ついに刃を向けてしまう。彼は、師匠の清兵衛親方〈モロ師岡〉や兼松と縁を切り、自ら死刑を望む覚悟で奉行所に自首する。そして南町奉行所の筒井和泉守〈山本亨〉が判決を下すのだが…。
 
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暗転後、スポットライトとともに、高座の紫色の座布団に着物姿で正座をして頭を下げた落語家が見える。そして顔をあげると、それが豊原功補であることがわかる。その鋭い眼差しと風格ある佇まいは、まるで天才的な人情噺家の古今亭志ん生が、彼の背中に憑依しているようで、それだけで会場に張り詰めた空気が満ちる。
そんな空気を和らげるように、彼はマクラ(本筋に入る前の前説のようなもの)を始め、この舞台のストーリーや人物の性格を笑いを交えながら解説する。そして、本筋に入る瞬間に豊原の高座が動き、さっと江戸時代の衣装を着た坂倉屋助七のモロ師岡が正座する高座に入れ替わり、そこから落語の世界、いわば劇中劇が始まっていく。そして狂言回しのように、モロ師岡が話し始める。この狂言回し的な役割は、次々と色々な役者に渡され、内面の独白や、ストーリー展開を説明する役割を果たす。
 
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美術(中根聡子)はシンプルだ。高座は3台ほどあり、これがパズルのように組み合わさり、場面を展開していく。また、天井から障子の桟を模したパネルが最大で5枚ほど降りて、長屋や寺、宿屋、竹藪、大店の奥座敷など場所を表現、パネルの後ろには映画館にあるようなスクリーンがあり、そこに当たるデリケートで美しい照明(倉本泰史)が天候や季節感を表してくれる。
小道具は、指物を表す箱形のもの以外は、落語のように扇子と手ぬぐいだけで表現、話の中に登場する食べ物(そば・つまみ)、飲み物(酒・タバコ)を扇子一本と所作で見せていく。その所作が全員みごとで、手練れの役者ばかりを揃えたキャストなので当たり前なのだが、初舞台だという森岡龍まできちんと見せてくれるのは、豊原の演出力に負うことが大きいだろう。
物語は、豊原が演劇キックのインタビューで(http://kangekiyoho.blog.jp/archives/52027013.html)「群像劇」と言っているように、11人の役者が、ときには2役を兼ねながら17人の役を演じていくのだが、その役柄が演じ分けも含めて、それぞれぴたりと嵌まって、落語の「名人長二」の世界がリアルな演劇空間となって立ち上がる。

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主人公長二を演じる豊原功補が圧巻だ。気っ風が良くて、人情味に溢れ、優しさもあり、だが仕事にかけては一切の妥協がなく、頑ななまでの職人気質という、江戸前の良い男がよく似合う。そんな長二が、ふとしたことで産みの親が生きていることを知り、そこから彼の運命が急転回していくのだが、そこからの長二=豊原功補は、静かな狂気さえ感じさせて、目が離せない。親と対峙し、ついには殺しに至る顛末は、歌舞伎の殺し場のようで美しささえ感じさせ、終盤のお白州の場にかけては、長二の愚直なまでの生き様と信念、それゆえの悲劇を、内面に熱を抱きながら淡々と演じきる。落語の語り部分も含めて入魂の演技で、豊原がどんなにこの物語を愛し、芝居噺として観客に見せたかったか、その情熱が全身から伝わって、鬼気迫るものさえ感じるほどだ。

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長二の弟子でお調子者の兼松は森岡龍。これが初舞台だというが、口跡がしっかりとしていて、思い切りの良い演技で、役割を堂々と果たしている。兼松は身分の低い出自で、足には古傷がありうまく歩けないのだが、そんな負の部分を見せずに、あっけらかんとしたたかに生きている。だがその明るさは、おそらく地を這うように生きてきた彼の人生の裏返しなのだろう。そんな彼の素顔が垣間見られるのは、亀甲屋の忘れ物のご馳走に喰らいつき、長二や手代萬助にとがめられる場面で、泣きながらも黙々と食べ物を口に運び続ける兼松の姿が切ない。 

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豪商の坂倉屋助七と長二の師匠清兵衛を演じるモロ師岡は、坂倉屋では金持ちの傲慢さをのぞかせ、清兵衛では弟子を信じ守ろうとする人情味を見せる。どちらも長二の腕に惚れ、想い入れする江戸っ子気質の頑固な男で、粋と渋さを滲ませて、物語世界に厚みを加えている。

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板倉屋の丁稚の三吉と、先代の亀甲屋に出入りして、のちに金貸しになる茂二作を演じる菊池均也は、対照的な2つの役どころ。前者はどこかトンチンカンで笑いを誘うコメディーリリーフ的な役で、後者はドラマ展開の鍵を握る悪辣な金融業者。まさに陽と陰、2つの顔を鮮やかに演じ分ける。

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花王おさむも対照的な役だ。亀甲屋の菩提寺の和尚と出入りの鍼灸医で、和尚では長二を産みの親へと繋いでいく役割となり、鍼灸医では強請を行う悪徳医者として姿を現す。どちらも出番であまり長くないのだが、物語を進める要として、花王ならではの大きな存在感を示す。

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清兵衛親方の息子恒太郎と、長二の幼馴染の繁蔵を演じるのは神農直隆。恒太郎は長二の兄弟子でもあって、父や友である長二を守る。また繁蔵は町奉行の筒井和泉守に仕える侍だが、その立場を支えに長二を救いたいと奔走する。いわばこの芝居に通奏低音で流れる「人情」を、誠実な風貌で体現してみせる。

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その真逆といってもいい役どころが亀甲屋の手代萬助で、演じるのは岩田和浩。身分の低い生まれにコンプレックスを抱いていて、同じ出自である兼松に悪意をぶつける。その暗い眼差しや憎悪を、岩田は巧みに表現して物語のスパイスになっている。

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牧野莉佳は助七の娘お島、のちに筒井和泉守の腰元島路となる役を演じる、ほんのりとした色香があり、大店で大事に育てられた娘ならではの無邪気さとともに、知性やユーモアも持っている良い女。筒井和泉守との掛け合いでは和ませるなど、この物語の明るい部分を担う。

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梅沢昌代は湯河原の宿の婆と、金貸し茂二作の妻おはるの2役で実力派の面目躍如、登場すると場面をさらう。長二の生い立ちを知る湯河原の婆は、とぼけた味の中に俗物の一面も覗かせ、だが憎めない人間くささがある。おはるは茂二作との腐れ縁に飽きている年増女で、どこか崩れた風情が色っぽい。2役ともにいわば汚れ役なのだが、それゆえに女性の抱える業が逆に浮き立って見えるのはさすが。

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幸兵衛の妻であるお柳は高橋惠子。持ち前の大人の色香は、この物語の核心部分を背負うにふさわしいファムファタルぶり。惚れ惚れするほど美しい着物姿の内からエロスが滲み出る。子を棄てた母親の罪深さに苦しみ、夫との間で懊悩する姿は哀れを誘うが、同時に弱い人間の保身も見えて、母性と女の本能の間で引き裂かれるさまは、まさに女優・髙橋惠子の真骨頂と言えよう。

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その夫、亀甲屋幸兵衛と、町奉行の筒井和泉守を演じる山本亨は、物語で言えば正反対の立場に位置する難しい2役だ。幸兵衛は赤子を見棄て、商売のためには裏取引も行い、金ですべてが解決できると思っている合理主義者だ。一方、町奉行の和泉守は、役職を超えて人間として長二と向き合い、法を逆手に取ってまで彼を生かす道を探ろうとする。幸兵衛の商売人としてのリアリストぶりから、打ってかわって、ロマンと人情に生きる町奉行の和泉守に変身。ときにはユーモアを交えながら緩急をつけて演じ、主人公長二の狂気にも似た情念を正面から受け止める懐の深さで、作品を引き締める。

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豊原演出は、落語の表現方法を巧みに取り入れながら、シンプルで観客の想像力を掻き立てる舞台を作り上げている。外枠である語りと、長二の物語部分をシームレスに行き来し、現代的なテンポと江戸の市井の生活感を違和感なく織り交ぜながら、ぐいぐいと観客を引っ張っていく。
音楽のチョイスも洒落ていて、時折り入るジャズが緊迫感を表し、三味線の紫蘭まきの和洋折衷的な演奏と歌が江戸情緒を醸し出す。
また、豊原脚本は、圓朝とモーパッサンへの敬意を表しつつ、オリジナルなラストを用意していて、それは観客自身が答えを見つけ出さなくてはならないような、難しい問いを突きつけてくる。
筋を通し、信念を通して生きる長二。その不器用なまでの一徹さは、理想であると同時に、常人にはできない孤高の生き方でもある。その生き方を、親子という理屈では割り切れない間柄にまで貫こうとした長二。その果ての親殺しとその後の顛末は、無残だがどこか潔くもあり…。悲劇ではあるが、ラストシーンの兼松の姿とともに、清々しい後味が心に残る珠玉の舞台が出来上がった。
 

〈公演情報〉
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明後日プロデュースVol.2 
芝居噺『名人長二』
原案◇ギ・ド・モーパッサン「親殺し」
原作◇三遊亭圓朝「名人長二」 
企画・脚本・演出◇豊原功補
出演◇豊原功補 森岡龍/モロ師岡 梅沢昌代 花王おさむ/菊池均也 神農直隆 岩田和浩 牧野莉佳/山本亨 高橋惠子
●5/25~6/4◎紀伊國屋ホール
〈料金〉6,800円(前売・当日共/全席指定/税込) 
〈お問い合わせ〉サンライズプロモーション東京 0570-00-3337(全日10:00~18:00)
 
【文/竹下力 撮影/アラカワヤスコ】





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